ゴルフ場の評価

1.ゴルフ場の市場環境

ゴルフ場の市場規模は、昨今の我が国の人口減少・少子高齢化や長く続いた景気低迷、余暇の多様化等を原因とするプレイヤーの減少により、ピーク時の約半分となっています。国内ゴルフ場は、利用者数の減少に加え、競合ゴルフ場との競争の激化により、客単価の下落を迫られており、引き続き厳しい環境にあります。このような状況に追い打ちをかけるように平成23年3月11日には東日本大震災が発生し、物理的な被害のみならず、その後の原発問題等も重なって、東北地方・関東地方を始めとして、日本全国に甚大な被害をもたらしました。この未曾有の大震災は、物的な被害に加え、計画停電や消費の自粛モード等により、ゴルフ業界にも大きな打撃を与え、閉鎖に追い込まれたゴルフ場も見られました。現在では多くのゴルフ場で、震災の影響は見られなくなっているものの、競合施設の多い地区を中心に、顧客の取り込み合戦等による厳しい価格競争も見られます。さらに近年では、新型コロナウイルス感染症の影響も懸念されています。

このような厳しい市場環境のもと、ゴルフ場ではコース管理費の削減や、キャディを用いないセルフプレー制の導入等による人件費の削減等によりコストを削減し、生き残りを図って来ました。しかし、コスト削減には限界があり、これによるコースの荒れやサービスの低下が問題となっています。したがって、市場規模の縮小に歯止めをかけるためには、顧客ニーズに合致したサービスの工夫や設備改修により集客力を向上させることが必要となります。

昨今のゴルフ業界は、若手女子プロゴルファーを始め、スター性のある人気選手が多数登場してきており、これに伴いゴルフを始める女性や親子連れが増える傾向にあります。また、ゴルフ人気が高まっている韓国国内においてはゴルフ場の数はまだ少なく、これにより日本への韓国人ゴルファーの流入も見られます。最近ではこのような傾向に呼応し、レディース層やジュニア層の取り込みのため女性向けの施設改修(キッズルームの設置、シャワールームの充実等)、レディースデーの設定、レッスンの充実など顧客のニーズに合わせてサービスを向上させる経営努力が見られます。但し、ゴルフ業界にとって上記のような明るい話題も出てきたものの、現在主力となっているシニアゴルファーの体力があと数年で限界に達することが危惧されており、ゴルフ場経営者にはより一層の経営努力が必要な状況と言えます。

2.ゴルフ場の評価のポイント

ゴルフ場の評価に当たっては、通常の評価と同様に、費用性・市場性・収益性(価格の三面性)からのアプローチが考えられます。但し、ゴルフ場の需要者は主として当該ゴルフ場からどれだけの収益を得られるかという観点から取引の可否や価格等を決定することから、評価に当たっては、対象ゴルフ場の収益性の現状と将来の動向を詳細に分析することが最も重要になります。

  1. 売上高
    ゴルフ場の売上高は、主にプレイ収入・料飲収入・物販収入・年会費収入等から構成されます。このうち、売上高の大半を占めるプレイ収入は、客単価に客数を乗じて想定します。プレイ収入の想定に当たっては、対象ゴルフ場の過去の売上実績や対象ゴルフ場のコースの特徴、主たる客層等のみならず、対象ゴルフ場が存する商圏エリア内の競合ゴルフ場の来場者動向を過去の実績データ等から分析し、対象ゴルフ場の競争力・市場での位置付け等を分析することが必要になります。
  2. 売上原価・販管費
    ゴルフ場経営における売上原価・販管費とは、コース管理費・人件費・料飲原価・物販原価等から成り、過去の実績を基に将来動向を勘案して想定します。費用項目の分析に当たっては、対象ゴルフ場の立地条件、想定する客層、料金体系などによって求められるコースの整備水準や従業員数等も異なってくるということに留意する必要があります。
  3. キャップレート
    景気が回復傾向にあった頃は、ゴルフ場の取得に積極的な姿勢を見せる外資系を中心とした企業も増加傾向にあり、ゴルフ場投資市場は過熱感を帯び、キャップレートも下落傾向にありました。しかし、最近では外資系企業のゴルフ場の保有解消が進んでおり、スポンサー情勢にも大きな変化が見られます。キャップレートの査定に当たっては、このような経済動向やゴルフ場投資市場の現状を分析し、市場の将来動向を分析することが重要になります。

3.おわりに

以上から、ゴルフ場を評価する際には対象ゴルフ場のみならず、競合関係にある周辺の他のゴルフ場、さらには景気動向・市場動向等も分析する必要があります。また、競合の対象となる施設は、周辺の他のゴルフ場だけではないため、ゴルフ場の収益力に影響を与える可能性のある他のレジャー施設の動向をも把握することが必要になります。
したがって、評価に当たってはミクロ的な視点だけでなく、マクロ的な視野を持って資料の収集・分析を行い、対象ゴルフ場の収益力・競争力の程度を判定しなければなりません。しかしながら、限られた期間内に膨大な資料を収集・分析することは容易ではありません。大震災などの天変地異を予測することは限りなく困難ですが、評価主体である不動産鑑定士は、ゴルフ業界のみならず、他のレジャー産業の市場動向やトレンドに敏感になり、常に情報を収集する姿勢が必要であると考えています。

編集者: 不動産鑑定士 平松 秀行

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