賃貸等不動産の時価評価の概要

1.はじめに

企業会計基準委員会は、会計基準の国際的なコンバージェンスの取組みを進めるに当たり、不動産の時価開示等の必要性をはじめ、その定義・範囲の明確化及び時価の算定方法等について審議を重ね、平成20年11月28日に「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」(以下、「本会計基準」)及び「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針」(以下、「本適用指針」)を公表しました。

以下、本会計基準及び本適用指針の概要を見てみましょう。

2.他の会計基準との関係

企業が保有する不動産の用途に応じて適用される会計基準としては、「固定資産の減損に係る会計基準(平成14年8月)」と「棚卸資産の評価に関する会計基準(平成18年7月)」が先行して公表、適用されています。これら会計基準と本会計基準との関係は以下の通りです。

不動産の分類 会計基準
貸借対照表上の区分 使用状況・保有目的に
よる区分
固定資産の減損に係る
会計基準
棚卸資産の評価に関する
会計基準
本会計基準
流動資産 棚卸資産
(販売用不動産)
毎期、低価法を適用し、
評価損を計上。
固定資産 有形固定資産(土地、建物、建設仮勘定等)及び無形固定資産(借地権) 物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている不動産 収益性の低下により投資額の回収見込の立たなくなった固定資産について「回収可能価額」を求め、この回収可能価額が簿価を下回った場合に一定の条件のもとで評価損を計上。
投資その他の資産
(「投資不動産」)
賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産(「賃貸等不動産」) 毎期、時価を財務諸表に注記して開示する。貸借対照表上の評価替えは行わず、損益計算には影響しない。

3.適用時期

本会計基準は、平成22年3月31日以後終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用するとされています。通常は1年が会計期間ですので、平成21年4月1日以降に開始する事業年度から適用となります。

4.目的

財務諸表の注記事項としての賃貸等不動産の時価等の開示について、その内容を定めることを目的としています。
「注記」ですので、損益計算書や貸借対照表本体への影響は無く、当期の損益に関わるものではありません。

5.適用範囲

「賃貸等不動産」を保有する企業に適用されます。なお、連結財務諸表において賃貸等不動産の時価等を開示している場合には、個別財務諸表で当該時価等を開示する必要はありません。

6.賃貸等不動産とは

賃貸等不動産とは、棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産(ファイナンス・リース取引の貸手における不動産は除く)をいいます。したがって、生産に使用されている自用の工場、商品の販売に使用される自用の店舗、本社機能に使用されている自社ビル等、物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている場合は賃貸等不動産には含まれません。
具体的に、賃貸等不動産には次の不動産が含まれます。

  1. 貸借対照表において投資不動産(投資の目的で所有する土地、建物その他の不動産)として区分されている不動産
  2. 将来の使用が見込まれていない遊休不動産
  3. 上記以外で賃貸されている不動産

2.の「将来の使用が見込まれていない遊休不動産」が賃貸等不動産に含まれるのは、当該不動産は売却が予定されている不動産と同様に、処分によるキャッシュ・フローしか期待されていないため、時価が企業にとっての価値を示すものと考えられることによります。なお、企業が将来の使用を見込んでいる遊休不動産は、その見込みに沿って、賃貸等不動産にあたるかどうか判断することとなります。また、現在の遊休状態となってから間もない場合であって、将来の使用の見込みを定めるために必要と考えられる期間にあるときには、これまでの使用状況等に照らして判断することが適当であると考えられます。

賃貸等不動産には、将来において賃貸等不動産として使用される予定で開発中の不動産や継続して賃貸等不動産として使用される予定で再開発中の不動産も含まれます。また、賃貸を目的として保有されているにも関わらず、一時的に借手が存在しない不動産についても、賃貸等不動産として取り扱います。但し、賃貸されている不動産であっても、連結会社間で賃貸されている不動産は賃貸等不動産には含まれません。

物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている部分と賃貸等不動産として使用される部分で構成される不動産について、賃貸等不動産として使用される部分は賃貸等不動産に含めますが、その割合が低いと考えられる場合は、賃貸等不動産に含めないことができます。
ファイナンス・リース取引において借手が固定資産に計上している不動産や、不動産信託の信託財産については、それぞれ賃貸等不動産に該当するかどうかを判定する必要があります。

7.賃貸等不動産に関する注記事項

賃貸等不動産を保有している場合は、次の事項を注記します。なお、賃貸等不動産の重要性が乏しい場合は注記を省略することができます。当該重要性は、賃貸等不動産の貸借対照表日における時価を基礎とした金額と、当該時価を基礎とした総資産の金額との比較をもって判断します。また、管理状況に応じて、注記事項を用途別、地域別等に区分して開示することもできます。

1.賃貸等不動産の概要

  1. 賃貸等不動産の概要には、主な賃貸等不動産の内容、種類、場所が含まれます。

2.賃貸等不動産の貸借対照表計上額及び期中における主な変動

  1. 原則として、取得価額から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した金額を記載します。なお、貸借対照表計上額に関する期中の変動に重要性がある場合には、その事由及び金額を記載します。

3.賃貸等不動産の当期末における時価及びその算定方法

    1. 原則的方法
      賃貸等不動産の当期末における時価とは、通常、観察可能な市場価格に基づく価額をいい、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額をいいます。時価は、「不動産鑑定評価基準」による方法又は類似の方法で算定するとされ、不動産の鑑定評価によって求める価格のうち、賃貸等不動産に関する注記を行うに当たって時価に対応するものは正常価格であると考えられています。
      また、収益不動産については、その価格形成が収益還元法に基づいている場合が多いという状況も踏まえ、賃貸されている不動産の時価を開示するに当たってはDCF法を重視した算定方法も用いることができると考えられます。したがって、証券化対象不動産の特定価格も時価として認められるようです。
      なお、契約により取り決められた一定の売却予定価額がある場合は、合理的に算定された価額として当該売却予定価額が用いられます。
    2. 簡便的方法
      第三者からの取得時又は直近の原則的な時価算定を行ったときから、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に重要な変動が生じていない場合には、当該評価額や指標を用いて調整した金額をもって当期末における時価とみなすことができます。
      さらに、その変動が軽微であるときには、取得時の価額又は直近の原則的な時価算定における価額をもって時価とみなすことができます。
      なお、開示対象となる賃貸等不動産のうち重要性が乏しいものについては、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に基づく価額等を時価とみなすことができます。
    3. 時価の把握が困難な場合
      賃貸等不動産の時価を把握することが困難な場合は、時価を注記せず、重要性が乏しいものを除き、一定の注記を他の賃貸等不動産とは別に記載します。
    4. 賃貸等不動産に関する損益
      損益計算書における金額に基づき注記を行いますが、賃貸等不動産に関して直接把握している損益のほか、管理会計上の数値に基づいて適切に算定した額その他の合理的な方法に基づく金額によって開示することができます。
      重要性が乏しい場合を除き、賃貸等不動産に関する賃貸収益とこれに係る費用(賃貸費用)による損益、売却損益、減損損失及びその他の損益等を適切に区分して記載します。

 

上記2.及び3.についての注記例は次の通りです。

連結貸借対照表計上額 当期末の時価
前期末残高 当期増減額 当期末残高
XXX XXX XXX XXX

このように、貸借対照表上の簿価と時価とを比較できるような表記が求められています。

8.終わりに

前述のように、企業が保有する不動産に適用される会計基準としては、「固定資産の減損に係る会計基準」と「棚卸資産の評価に関する会計基準」が先行して公表、適用されています。本会計基準が出されたことにより、あらゆる不動産について取得原価主義ではなく、時価を基調とした資産評価主義への転換が決定付けられたといえます。企業の決算書に不動産の時価を開示するという考え方は国際会計基準で既に採用・実施されていましたが、我が国もこれに追随する形となりました。
本会計基準は、損益計算に直接影響を与えるものではありませんが、収益不動産や遊休不動産を多数保有する企業については、それらの含み損・含み益を開示した際、利害関係者から説明を求められることがあるかも知れません。弊社では、賃貸等不動産の時価を不動産鑑定評価基準による方法又は類似の方法で算定することはもちろん、適切なCRE戦略についてのアドバイス等も適宜行っております。お気軽にご相談下さい。

※ 主なサービスの内容

  • 鑑定評価書…不動産鑑定評価基準に基づく不動産鑑定評価
  • 調査報告書…現地調査を行う簡易な価格評価(A4で5~6枚程度)
  • 机上評価書…机上による価格評価(A4で1枚程度)

編集者: 不動産鑑定士 平松 秀行

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