減損会計の適用における提案書

総論

1.本提案書の目的

固定資産の減損会計では、減損損失の測定における正味売却価額を求める場合等、不動産鑑定評価基準に基づく不動産の鑑定評価を採用することが期待されています。
本提案書は、このように特に不動産鑑定評価書が期待される場面はもちろんのこと、減損会計制度が財務諸表の対外的な信頼性の確保を制度趣旨としていることを鑑み、制度適用の流れのなかでの各種の不動産査定及びこれに関わる周辺サービスを行い、減損処理の精度・適正性・妥当性の維持・確保に基づく対外的な説明力の向上に資することを目的とするものです。

2.減損会計制度適用のフロー

ステップ1・・・減損の兆候
市場価格が簿価より50%以上下落
ステップ2・・・減損損失の認識
帳簿価額 > 割引前キャッシュフローの総額/dd>
ステップ3・・・減損損失の測定
簿価を回収可能価額※まで減額
※回収可能価額・・・正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額/dd>

3.弊社サービスの提示場面・項目

(1)減損の兆候
  • 全資産又は主要な資産の鑑定評価書・調査報告書・机上調査書による価格査定
  • 減損の兆候を把握するうえでの資産グルーピングについてのアドバイス
  • 資産(グループ)のCF等のデータ提供を受けて、全固定資産の減損の兆候の判定、判定データの整理
(2)減損損失の認識
  • 割引前キャッシュフローの総額の見積り(経済的残存耐用年数経過時点の正味売却価額の鑑定評価書・調査報告書を含む)
  • 経済的残存耐用年数経過時点の正味売却価額のみの鑑定評価・価格査定
(3)減損損失の測定
  • 正味売却価額の算定における時価の鑑定評価書・処分費用見込額の査定
  • 使用価値の鑑定評価書・調査報告書(割引後キャッシュフロー総額の見積りであり、経済的残存耐用年数経過時点の正味売却価額の評価を含む)
  • 使用価値の算定における経済的残存耐用年数経過時点の正味売却価額のみの鑑定評価書・調査報告書
※主なサービスの内容
  • 机上調査書:机上による価格調査(A4で1枚程度)
  • 調査報告書:現地調査を行う簡易な価格調査(A4で5~6枚程度))
  • 鑑定評価書:不動産鑑定評価基準に基づく不動産鑑定評価)

適用する場合の注意点

A.金融機関の場合

1.資産のグルーピング

資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行うこととされています。原則として、小さくとも物理的な1つの資産がグルーピングの単位を決定する基礎になると考えられるため、金融機関においては、各店舗の営業収支に基づき、各店舗単位がグルーピングの単位となると思われます。この場合、店舗用駐車場、出張所等の営業店舗は、主たる店舗の生み出すキャッシュ・フローに取り込まれていると考えられるため、当該主たる店舗と共に1つのグループの単位を形成すると考えられます。
また、本部ビルや保養所などの単独では独立したキャッシュ・フローを生み出さない共用資産は簿価を各資産グループに配分することが考えられます。
なお、遊休不動産については、基本的には当該資産単独での算定になります

2.減損の兆候

減損会計基準では、「資産又は資産グループの市場価値が著しく下落した」場合には減損の兆候が有るとしています。適用指針は、この市場価値の評価について、地価公示価格、基準地価格、相続税路線価、固定資産税評価額等の評価額や指標を合理的に調整したものの採用を認めております。しかしながら、都心部においては都心回帰の傾向や企業の投資意欲の増大により、実勢価格(時価)が上記価格を大幅に上回る場合や、反対に繁華性の劣る路線商業地域や地方中小都市のように市況の劣る地域では、実勢価格が上記価格より大幅に下回る場合が見られるなど、特に注意が必要です。

3.減損損失の認識

現在正常に営業中の店舗であれば、割引前将来キャッシュ・フローの合計は通常簿価を上回ることが予想され、減損損失の認識はないものと思われます。問題となるのは、不採算店舗等であり、割引前将来キャッシュ・フローが簿価を下回る場合、減損損失の測定の段階に進むことになります。

4.減損損失の測定
(1)正味売却価額を求める場合

閉鎖店舗や将来の用途が定まってない遊休資産については、減損損失の測定において正味売却価額の算定が必要となります。正味売却価額における時価を求める場合には、実際に売却が可能な価額を求める必要があり、対象不動産の市場性については、十分留意する必要があります。
一方、営業を継続する店舗についても、収益力・競争力の劣る店舗等では、用途変更・改造・取壊し等が必要となるケースが多く、簿価よりも低い価額となることが予想されます。したがって適正な正味売却価額を求める場合には、不動産の評価に精通した不動産鑑定士の判断が要求されます。

(2)使用価値を求める場合

使用価値を求める場合においては、キャッシュ・フローは企業から提示された資料に基づき見積もることとなりますが、特に1・2階が金融機関店舗、上階が賃貸事務所として利用されている営業店ビルについては、適正なキャッシュ・フローの見積もり及び割引率の設定等について、不動産鑑定士の意見を求めることが望ましいと考えられています。

B.工場・倉庫等の場合

1.資産のグルーピング

独立してキャッシュ・フローを生み出す最小単位が1グループとしてグルーピングされなければなりません。1つの工場が1グループとなる場合もあれば、1つの製造ラインが1グループとなる場合もあれば、社宅等の共用資産を含めた企業が保有する全ての工場が1グループとなる場合もあります。なお、中間製品しか製造しない工場であっても、当該中間製品に外部市場が存在する場合は、当該資産単独での算定となります。また、遊休不動産については、基本的には当該資産単独での算定になります。

2.減損の兆候

減損会計基準では、工場等が概ね正常に稼働しており、キャッシュ・フローがマイナスとなっていなくても、「資産又は資産グループの市場価値が著しく下落した」場合には減損の兆候が有るとしています。適用指針は、この市場価値の評価について、地価公示価格、基準地価格、相続税路線価、固定資産税評価額等の評価額や指標を合理的に調整したものの採用を認めておりますが、地方中小都市の工業団地のように市況の悪い地域では、実勢価格(時価)が固定資産税評価額より下回る場合があります。当該指標の規範性が、都市部と比較して地方は相対的に低下しているのが現状です。

3.減損損失の認識
①概ね正常に稼動、キャッシュ・フローが標準以上

割引前将来キャッシュ・フローのみの単純合計が帳簿価額を上回る場合、減損損失の認識はされません。下回る場合は、主要な資産の経済的残存使用年数又は20年経過後の回収可能価額を含めた総額が、帳簿価額を上回るか否かの判定が必要です。その際の回収可能価額は、物件の性格上、20年経過後の使用価値になるとは考えにくく、正味売却価額とならざるを得ないでしょう。

②稼働率が低下、キャッシュ・フローが標準以下又はマイナス

物件の性格上、合理的な使用計画等に基づき、標準的なキャッシュ・フローを算定することは難しいと考えられます。減損損失の測定の作業が必要となり、その際の回収可能価額は正味売却価額になるものと考えられます

4.減損損失の測定

正味売却価額の査定が中心となるものと考えられます。

①評価上、用途転換を想定することが妥当な場合

用途地域が準工業地域等の場合、戸建分譲用地・分譲マンション用地等の住宅系の用途への転換が可能となります。その際の評価額は、開発業者の事業採算性に見合う価格が中心となります。また、その場合、土壌汚染の調査費用のみならず、浄化措置費用が顕在化することが考えられます。

②評価上、現状用途の継続が妥当な場合

用途地域が工業専用地域の場合、たとえ建物等を取壊すことが妥当と判断されても、従前と同じ工場・倉庫用地としての用途制約は続くこととなります。この場合の評価額は、工場・倉庫用地としての価格となります。住宅系の用途に転換する場合と異なり、土壌汚染の浄化措置費用が顕在化することは少ないと考えられますが、こういった用途限定のある不動産の需要者は同業者に限定される傾向があります。工場・倉庫、ゴルフ場、ホテル等といった市場限定のある不動産の評価においては、熟練した専門家の判断が不可欠です。

C.郊外型多店舗展開企業の借地権の場合

多数の店舗・事業所を展開している企業には、建物賃借又は借地により出店しているケースも多いことと思われます。
このうち、建物賃借の場合は資産計上されませんので問題はないのですが、借地については無形固定資産の「借地権」として資産計上されることもあり、この場合減損会計の対象となります。
但し、一口に「借地権」と言ってもその市場価値は契約内容によって様々で、「減損の兆候」・「減損の認識の判定」の段階における市場価値の判定に当たっても、この契約内容に応じて検討する必要があります。
なお、減損処理が必要となる代表的なケースとして考えられるのが、不採算店舗や閉鎖(予定)店舗です。これらは、それだけで「減損の兆候」があり、多くの場合「減損の認識の判定」がなされるものと推量され、「減損損失の測定」が必要となります。

(1)「減損の兆候」段階における留意点…借地権の種類毎の取り扱いについて
○通常の借地権

(旧)借地法の適用を受ける借地権(旧借地権)と、借地借家法の適用を受ける借地権(普通借地権)とがあります。この両者には、借地権の存続期間等の点で相違があります。
これらの借地権価格の概算方法として、次の式が挙げられます。

借地権価格 = 更地価格 × 借地権割合 × 市場性修正率

なお、この場合の市場性修正率は、契約内容・経過期間等のほか、借地権の市場性等を総合的に勘案して査定します。

○定期借地契約による借地権
・権利金が支払われている場合
権利金相当額等を無形固定資産として資産計上してあるケースがあり、この場合は減損会計の対象となります。定期借地契約における権利金は、前払い地代と考えられ、その分毎期の支払地代が減額されているはずです。そのため、この借地権の譲渡を受けた場合、以降は割安な地代の支払いで済むことから、いわゆる借り得部分が生じることとなります。この借り得部分が借地権の価格として認識されるのですが、理論的には「借地権」の簿価(契約期間で償却後の額)と近いものとなると考えられます。
・保証金が支払われている場合
保証金は権利金とは異なり、無形固定資産として計上せず、「保証金」勘定に計上されるため、減損会計の対象とはなりません。もっとも、借地の改良費用や借地契約に伴う経費等を「借地権」として資産計上するケースもあるかと思いますが、それらについては基本的には市場価値は認められません。
(2)「減損損失の測定」段階における留意点…鑑定評価における定期借地権の取り扱い

鑑定評価における定期借地権の評価は、借地上に存する建物と一体で評価を行うこととなります。定期借地権と建物とを一体で評価を行った後、その評価額をそれぞれに配分して「減損損失の測定」段階における「資産又は資産グループの時価」とします。ところで、上の定期借地権の欄で、定期借地権の価格は理論的には償却後の簿価と近いものとなると述べました。しかし、実際には地主の承諾がないとスムーズな譲渡は困難であり、仮に承諾が得られないとすると借地権・建物一体での価格は限りなく0に近づくこととなります。地主の意向がある程度判明しているのであればそれを評価に反映することとなりますが、不明な場合には、相応のリスクを見込んで評価額を決定します。したがって、このような場合における「時価」は、簿価と比べて相当に低い額となるものと思われます。

編集者: 不動産鑑定士 後藤 計

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